『量子の宇宙でからみあう心たち』-(2)-脳波同期現象

4】無意識に現われる超心理-気づかぬうちに発揮される力

 

・中枢神経系に現われる超心理(脳波同期現象)

シュミットのメタ分析により、遠くにいる人のことを考えると、その人の自律神経系に影響を与えることがあると判明した。それでは脳の中枢への影響はないのだろうか。テレパシーの事例を考えると、それもありそうである。どのような実験的証拠があがっているのだろうか。

脳波を使った実験では、一方の人の手に針を刺したら、他方の人の脳波に、それに対応した信号が発生しないか、などといったデザインが可能である。針を刺すのは物騒なのでかわりにたとえば、フラッシュライトの点灯を使う。この実験について詳しく述べる前に、この種の研究の変遷を見てみよう。

遠く離れたふたりの脳波の相関を見た研究1960年代にふたつ報告された。そのひとつは、「変性意識状態」研究のパイオニアである、カリフォルニア大学デイヴィス校の心理学者チャールズ・タートによってなされた。もうひとつは第2章未に述べた一卵性双生児の実験で、『サイエンス』に掲載されたものである。これらがきっかけとなり、8つの研究グループが世界中でその実験の追試を行ない、10の報告がなされている。10のうちの8つは肯定的な結果が出ており、ひとつは最高ランクの科学誌『ネイチャー』に、もうひとつは本流科学の権威ある論文誌『行動神経医学』に掲載された

10年後には、メキシコの心理生理学者のグリンバーグ=ジルバーバウムらが、脳波の同期現象を研究して一連の報告をしたが、そのうちのひとつ [後述のEPRパラドクスに関連づけた論文]が物理学分野の論文誌に載ったために、さらに多くの追試がなされた。2003年には、脳波測定の専門家であるジリ・ワッカーマンらが追試に成功して 『ニューロサイエンス・レターズ』 に論文が報告された。彼らは、それまで指摘された問題にすべて対処し、着実な分析手法を適用して、その結果を出している。彼らの結論によると

 私たちは、方法論的な欠陥や測定誤差として片づけることができない現象、脳波の性質として理解することもできない現象に直面している。離れた二人の間の脳波に相関をもたらす生物物理的メカニズムは、現在のところ何も知られていない

また、バスティール大学のリアンナ・スタンディッシュらは、『保健・医学における代替療法』に掲載した論文で、新しいタイプの成功実験を報告している。あらかじめ30組のなかから脳波同期が顕著な一組を抽出して、その受け手が脳断層撮像装置(fMRI)に入った状態の脳活動を測定したのである。パートナーが市松模様の点滅を見ている間、その受けては、後頭葉の視覚皮質に活動の上昇を有意に示した偶然比1万4000分の1)。同じ研究グループの別の実験も成功した。脳の同期が有意に検出されただけでなく、同期が起きている脳の精確な部位も特定されたのである。医学論文誌に発表されたのにもかかわらず、この発見はあまりにショッキングなので、ほとんど最初から無視される運命にあった。ホワイトハウスの中庭に異星人が着陸したという話を無視するのは当然だろうが、この発見を軽視してはいけない。スーパーマーケットで異星人が買い物をしているのを皆が見ているのに、誰も問題にしないのと同様の状況なのだ。さらに2004年には、三つの追試が独立して行なわれたが、いずれも成功だった。ひとつ目は、『代替・補完医学論文誌』に掲載されたリアンナ・スタンディッシュらの論文で、瞑想訓練した30組の人々にかんする脳波同期を、全体として有意(偶然比2000分の一)に検出した。ふたつ目は、エジンバラ大学の心理学者マリオス・キテニスらが行なった。送り手にフラッシュライトを当てたときに受け手のアルファ波に生じる、誘発電位に注目した実験である。41人の協力者を得て、26人の感情的なつながりのあるペアの実験、6人の無作為に割当てられたペアの実験、そして残りの5人については、ペアを組んだと信じこまされたが送り手はいない状態で実験した。アルファ波の誘導を調べたところ、感情的つながりがあるペアと無作為のペアで違いが現れ、感情的つながりがあるペアで統計的に有意(偶然比50分の1)、両方あわせるとさらに有意(偶然比147分の1)であった。送り手がいない状態[つまりフラッシュライトが無人の部屋で光った状態]の受け手の電位は、そうでないときのサンプル電位と同程度であった。三つ目は、私が同僚とともに行った時の実験である。協力者としてノエティックサイエンス研究所にきてもらった、たんなる友だち同士3組に対して行なった。各組では、送り手(ジャック)と受け手(ジル)をどちらが担当するか、その友だち同士で決めてもらう。両者に脳波測定の電極を装着したら、ジルにはシールドルームの安楽椅子に腰掛けてもらい、ジャックを扉三つ向こうの、10メートルほど離れた薄暗い部屋に案内する。そこのテレビモニターには、シールドルーム内のジルが映し出される。

両者に著した電極の配線を、別々の脳波計につないだら、コンピュータを始動させる。あとは、搭載したプログラムによって自動的に実験が進む。「送信時刻」になるとコンピュータは、ジルの映像をジャックのモ=ターに10秒間だけ表示する。その時間帯および前後の時間帯の脳波データは、コンピュータに記録される。送信時刻はコンピュータによってランダムに決定されるので、ジルの映像が現れると、ジャックの脳に驚きの反応が現れる。

興味深いのは、ジャックのモニターに映像が現れたときの、ジルの脳の反応である。もしジャックとジルのあいだになんらかのつながりがあれば、ジャックの脳に反応が現れたときに、まったく同じではないにしても類似した反応が出るにちがいない。当然ながら、ジャックもジルも、送信がいつ何回行なわれるかを知る術はない。実験全体の所要時間さえも正確には知らされてないのである。実験結果では、突然の映像の出現に対するジャックの脳の反応が、予想通り記録されていた。映像の出現後その信号は上昇し、約3分の1秒後にピークを迎えている。過去の多くの研究で、「視覚誘発電位」として知られる結果と、これは合致している。そしてそれに加えて、超心理的つながりが予想したように、ジャックのピークから100ミリ秒以内に、ジルの脳波もピークを呈したのである。両者の脳の反応には有意な相関が見られた(偶然比5000分の1)。この結果が、装置や分析の問題から発生した片寄りではないことを示すため、同じ装置で対照実験を行なった。映像が出現するときには電磁波が発生するだろうが、ジルのシールドルーム内の電極がそれを検出することはなかった。ゆえに、脳波の相関は、超心理学的現象を反映したものと思われる。

内臓電位は1分間に3サイクル程度の遅いリズムを刻んでいる。ジャックは、ときどきジルの映像を見ながら、写真や音楽から引き起こされる感情を「送信」するように努力すると、ジルの内臓電位は、有意に変動した。この実験は、虫の知らせが、ときには遠くの人の感情状態に応答している可能性を示している。そうだとすると、内臓感覚に影響される決断には、超心理学的知覚が含まれているのかもしれない。内臓や脳がかかわる直観は、これまで考えられてきた以上に、外的世界や他の人々とつながり合っていることが、実験によって明らかになったと言えよう。